『歌わせたい男たち』
(2005年10月〜11月/ベニサン・ピット)
出演:戸田恵子、大谷亮介、小山萌子、中上雅巳、近藤芳正
*戦後生活史三部作
第二次世界大戦後に日本を見舞った3つの大きな価値観の変化(軍国主義から民主主義へ、日米安保闘争、高度経済成長)が普通の人々の生活に巻き起こした混乱を描いたコメディ。
第1部『時の物置』
(1994年)
高度成長期の拝物主義に踊らされる新庄家の物語。
1961年、安保反対闘争の余熱を残しつつ「所得倍増だ」「レジャーブームだ」「テレビだ、電気洗濯機だ、電気冷蔵庫だ」と時代は東京オリンピックを控え、高度成長期に向かいはじめていた。貧乏だけれど誇り高い「新庄家」にはまだテレビがない。ところが、納戸に下宿する謎の女、ツル子がテレビをもらってしまい、近所の面々が入り浸る始末。新庄家の主婦でもある、延ぶおばあちゃんは気が気ではない。娘の詩子夫婦がツル子にテレビを贈ったのは、何か下心があってのことなのだ。息子の光洋は中学教師の傍ら私小説を書いている。孫の秀星は大学の自治会委員長選に打って出る。孫の日美は新劇女優を目指している。それぞれの忘れられない「時」が新庄家の茶の間に刻まれてゆく。
第2部『パパのデモクラシー』
軍国主義から民主主義への転換で揺れる神主一家の物語。
1946年、敗戦直後の東京。神主の木内忠宣は軍国主義の手先だったと非難され、デモクラシーの新時代においては、はなはだ分が悪い。長男はシベリヤ抑留中で、この食糧難に、長男の妻のふゆ、次男の宣清と居候の本橋(元特高警察官)を抱えている。そこへ、かつては国防婦人会のメンバーだった緑川が民主的活動家に転身し、戦災で住まいを失った人たちを預かれと、七人も押しつけてゆく。中には東宝映画で争議中の助監督・横倉たちもいて、何が民主的かをめぐり、たびたび忠宣ともめるのだった。ふゆはすっかり横倉に感化され、待遇改善を求めてストライキを始める。宣清は闇市をうろつきだした。そんな中、養子の千代吉が復員してくる。ふゆはオツムの弱い千代吉をオルグしようと民主主義を説くのだが……
第3部『僕の東京日記』
(1996年)
70年安保の学生運動に乗り遅れたお坊ちゃん学生、原田満男の下宿屋物語。
1971年の東京。大学生の原田満男は東京に実家があるのに、あえて四畳半一間のアパートに下宿した。あの騒然たる学園紛争には参加しきれなかったが、もうノホホンと父母の保護下にはいられなくなったのだ。バイトで自活し、せめて「おぼっちゃん」というイメージだけでも払拭したかった。だが、このアパートで満男はニューレフトの活動家井出の同棲相手、のり子と親しくなり、爆弾闘争に巻き込まれることになる。一方で猫嫌いのサラリーマンと猫好き女のもめ事や、ラブ&ピースのコミューンを目指すヒッピーたちともかかわらざるを得ない。自立するどころか、満男の生活はますます混乱をきわめだした。