サエボーグ

サエボーグ

ラテックスの身体から眺める人間たち+サエボーグいきもの図鑑

Ⓒ 宇壽山貴久子

2024.11.01
サエボーグ

Ⓒ 宇壽山貴久子

サエボーグSaeborg

1981年富山県生まれ。女子美術大学卒業。家畜や害虫などを題材にした自作のラテックス製ボディスーツで、パフォーマンスやインスタレーションを展開する。2014年第17回岡本太郎現代芸術賞 岡本敏子賞、2022年Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024受賞。近年の主な展覧会、公演に、Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024受賞記念展『I WAS MADE FOR LOVING YOU』(24)、ミドルズブラ・アート・ウィーク『Pigpen』(23)、世界演劇祭『Super Farm』(23)、シアターコモンズ’23『Soultopia』(23)、Ultra Unreal『Slaughterhouse』『Pootopia』(22)、個展『LIVESTOCK』(21)など。

https://saeborg.com/

かわいくて従順で、ツルツルしたラテックス製のメス豚の着ぐるみの中には、自らの身体を大胆に拡張して遊び倒しながら、人間のふるまいを自覚的に見つめるアーティストの姿がある。「半分人間で、半分玩具の不完全なサイボーグ」を標榜するサエボーグは、人間のために生かされている家畜やペットを、その生息環境ごとポップなプレイランド空間に現出させる。鑑賞者は、傍観者にとどまることなくその場にフレンドリーに迎え入れられ、次第に生態系における人間の位置と所業を、リアルに思い知らされたりする。

知る人ぞ知るフェティッシュパーティーでのコスプレに始まるその表現は、各方面のマニアからの支持はもとより、ジェンダーと多様性、動物愛護と肉食・菜食および宗教問題、環境破壊とエコロジー運動などなど、いまや地球上のさまざまな喫緊の課題に関連付けて解釈され、世界各地から展示とパフォーマンスのオファーが絶えない。

こうした多様な共感と理解が広がるなかで、そもそもサエボーグ自身は、何を目指してきたのか。その誕生から今日までを、作品のレギュラー・キャラクターの一挙紹介とともに確認しておこう。

取材・文/鈴木理映子

――おもちゃや同人誌を愛好する学生が、いかにして「サエボーグ」になったのか。まずは、入門として、サエボーグさんのアーティスト前史をお伺いできますか。
今でも私は「腐女子」(*1)なんですけどね。例えば「やおい」(*2)好きな人って、女性としての役割が嫌だから、男性同士に目を向けるところがあると思うんです。私の場合も、女性の役割を降りたいという気持ちが昔から強くて。好きなキャラクターがいて、「かっこいい。こんなふうになりたい」と思うことはあっても、その彼女や恋人になりたいと思ったことはない。むしろそういうジェンダーロールをあざ笑うために “メス家畜” のような、普通の人は絶対に興奮しないであろうモノを作るようになっていったんだと思うんです。ですので、そういう枠組みからドロップアウトしたいという気持ちから始めました。
――今、おっしゃったようなジェンダーに関わる疑義の表明と、着ぐるみを着て、人間だけれど人間ではないものとしてパフォーマンスすることが結びついたのはいつ頃ですか。
富山から上京して、女子美(女子美術大学)の洋画科に入ったけど、絵画を偏愛する人は世の中にいっぱいいるし、どういうふうに自分の技術を活かせるのかもわからないしで迷走していたんです。同時期に「デパートメントH」(*3)というフェティッシュパーティーに出入りして、コスチュームプレイをたしなんでいたんですが、それが「自分の表現」につながるという発想も全然なかった。そんなときに今も凄く世話になってる当時のゼミの先生に「サエちゃんは、当たり前のようにラバーを着てパーティーに行くのに、当たり前のように個展をすることはできないんだね。それってデパートメントHに失礼なんじゃないの」と言われたんです。それはそのとおりで、ラバーのボディスーツだって全力で作ってはいたけれど、どこかで「アーティストとして」という立場とは分けてしまっていた。自分のやっていることを自然に、アートとして出していいんだと思うようになったのはそれからです。
  • Ⓒ 宇壽山貴久子
      

――「サエボーグ」と名乗ったのもその時期からですか。
「デパートメントH」ではみんな、キラキラしたパーティーネームを名乗るんです。それで自分の本名の「サエコ」の名残もありつつ、「サイボーグ009」(*4)みたいでいいなというノリでつけました。昔あった、アイテムを取ったり着けたりできる「変身サイボーグ」というおもちゃのイメージもありました。自分の身体さえも組み替えが可能な、可塑性のあるものとして捉える。おもちゃで遊ぶ感覚です。お金持ちのおもちゃコレクターにはかなわないので、自分だけのおもちゃを作って、しかも自分が着て、パフォーマンスすれば、自分だけのプレイランドが作れていいじゃん?って。いわゆる “アーティスト” としてのデビューは、2014年のTARO賞(第17回岡本太郎現代芸術賞 岡本敏子賞)になると思うんですが、そのときにはもうアングラ・パーティーでの名前の方が通っていたので、そのままサエボーグでやっていくことにしました。
  • 2014年第17回岡本太郎現代芸術賞 受賞者特別展示『Slaughterhouse-9』
    画像提供:川崎市岡本太郎美術館

  1. 腐女子

    オタクのなかでも特に男性同士の恋愛、性愛を描くコンテンツを好む女性。

  2. やおい

    男性同士の恋愛、性愛を題材にした女性向けコンテンツの総称。

  3. デパートメントH

    東京・鶯谷の東京キネマ倶楽部で毎月第一土曜日深夜に開催される、アンダーグラウンドの名物イベント。ラバー、レザー、ゴシック、ドラァグ、SMなど、フェティッシュをテーマにした仮装とショーが繰り広げられる。

  4. サイボーグ009(ゼロゼロナイン)

    漫画家石ノ森章太郎(1938~1998)による人気漫画。00で始まるナンバーで呼ばれる9人のサイボーグ戦士の活躍を描く。1964年に『週刊少年キング』で連載が開始されて以来、漫画誌のほかテレビアニメや映画などで半世紀にわたり広く普及している。ちなみに9人のサイボーグの出自は001:ロシア、002:アメリカ、003:フランス、004:旧東ドイツ、005:ネイティブアメリカン、006:中国、007:英国、008:アフリカ、009:日本、という設定。

  • サエビーフ Ⓒ Taro Irei

――今も続く「家畜」のシリーズが始まったのは、2009年頃で、最初は牛のサエビーフでした。
既製品ではないオリジナルの着ぐるみは、ナマズが最初で、その次の「セックスプードル」までは自分でデザインした後にKurageというラテックスブランドにオーダーして作ってもらいました。その後、自分で全部作り始めました。まずはエイリアンを習作として作り、次から動物になって今に至ります。ラテックスで作る衣裳といえばだいたいキャットスーツですが、結局あれも人間の形なんですよね。異質感はあってもフォルムは変わらない。持って生まれた体型がモノをいいますので、自分の体型や自分の形が面白いと思えない私には向きませんでした。私はデフォルメに興味があって、人間が入っていながら、いかに人間の身体から外れていくかを考えるのが好きなんです。牛から始まって、羊、鶏、ファーマー、農園、二足歩行の豚、四足歩行の豚……と続きました。最初は動物になれればなんでもよかったんですが、デパHのオーガナイザーのゴッホ今泉さんに「これはもう家畜シリーズにしなよ。その方がサエボーグのこだわりにぴったりだよ」と言われて「確かに」と。パーティーに来る人たちって、それぞれのファンタジーを反映した“戦闘服”をまとってくる。だったら私は、弱いものにこだわって作りたいと思ったんですよね。「最弱だけど、私がクイーンよ」って気持ち。コスチュームプレイをするときは多くの人が、角をつけたり、強くて格好いい方に行きたがるんですが、私はそれはしたくなかった。
――岡本敏子賞を受賞したのは、メス豚をはじめとする家畜たちの日常を描く「Slaughterhouse」シリーズのひとつ『Slaughterhouse-9』です。動物はもちろん太陽や樹木まで、すべてがラバー製の牧場で、羊の毛刈りや豚の屠畜ショーが繰り広げられる。プレイモービルの世界に迷い込んだようなカラフルでポップな世界観と、グロテスクな真実が隣り合う空間が強いインパクトをもたらします。
あんなに明るく楽しそうな場所で、何も知らされずに管理されてるのって残酷ですよね。パフォーマーにも悲しそうにしたりせず、無邪気なままやってほしいと言っています。具体的な指示もほとんどせず、いつ出てきて、ここで切られて、倒れるくらいのことしか決まっていない。というのはキャラクターがすでにストーリーを背負っているからです。毛刈りされておっぱいが出ちゃったり、卵を産んだり、屠畜されてハムになったり、というそれぞれに与えられた役割、運命をそのまま見せる方がテーマを伝えられると思っています。
――「家畜」という題材は、社会の中に当たり前のように組み込まれた「役割」や「搾取」の構造を浮き彫りにするものだと思います。動物愛護や環境保護にまつわる課題などにもつながっていくテーマですよね。
私自身はそれほど考えることもなく「弱い/管理されている」という理由だけで家畜を題材にしていたんです。でもそうした反応をいただいて感じたのは、家畜は自分たちの鏡なんだなってことです。「深い作品」と言われたりもしますが、深いのは私じゃなくて、家畜。長い歴史の中で、人間のパートナーになり得たからこそ、いろいろなテーマを見せてくれるんだと思います。
――あいちトリエンナーレ2019で発表された『House of L』以後、動物への関心はペットへも広がってきていますね。
ずっと猫を飼っていたこともあって、わりと早い時期からペットシリーズをやりたいと考えていました。ペットは、ドメスティックバイオレンスの問題とも密接につながっていますし、人間と近い存在だからこそより残酷な面があると思います。ただ、最初からペットを扱ってしまうと「かわいい」ものとしてしか消費されない気がしたので、家畜シリーズをある程度まとめて見せたうえでやろうと。
私は生殖をコントロールされるのが「家畜」の定義と考えているので、ペットも家畜なんですが、そこをうまく説明しないと残酷さが伝わらない。それで考えたのが『House of L』に登場する大きくてゲロゲロ吐く犬「アグリーペット」です。これまで作ってきた家畜シリーズのキャラクターたちとアグリーペットを絡めて、お客さんが子豚たちにミルクをあげて世話をするプレイの中で、ペットとしての可愛さという役割を果たせてない、ポンコツで不完全な存在の犬とも関わるという作品にしました。お客さんも楽しんでくれて、保育園のような温かい、いい空間が生まれたんですが、私としてはペットのテーマがやり切れていない気もしていて、それが都現美(東京都現代美術館)での『I WAS MADE FOR LOVING YOU』につながっていきました。
  • 『I WAS MADE FOR LOVING YOU』(2024)に登場したサエドッグ。 Ⓒ 髙橋健治

――『I WAS MADE FOR LOVING YOU』は、Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 の受賞記念展で発表されました。農場を描いた書割の大空間の中に台座があり、ポツンと一匹の犬が座っている。訪れた人は、人間におびえながら涙を流す「サエドッグ」とひとときの交流をすることになります。この展示ではご自身もほかのパフォーマーの方と交代でサエドッグの「内臓」(中の人)をされていました。サエドッグとしての体験はどのようなものでしたか。
泣いているお客さんが多かったですね。「泣かないで」って慰めにいったりしました。そうやって寄り添えたときは、役割を果たせたなと感じます。孤独な人をケアしたいという気持ちもあってやったことなので。ただ、四つんばいの状態でずっと見世物になって犬をやっているとやっぱり、自然と人間に対しておびえてしまうんです。交流の仕方も人によって違いますし、人間は優しい面と意地悪な面の両方を持っているから、意地悪な方を引き出してしまってこちらが傷ついたり。見世物になる恐ろしさもあって、カメラ、スマホで至近距離から撮影されるのも怖くなりました。予想はしていたけど、予想していた以上に怖かった。けど、それ以上に優しい人も多かったことにびっくりしました。
――サエドッグは、その弱さで向き合う人からケアの精神を引き出すだけでなく、相手の孤独を癒し、弱さを分け合える仲間にもなる存在です。
憐れみを誘う存在を着ぐるみにしてパフォーマンスすることで、人の心を揺さぶることもできる。そういう逆転の瞬間が面白いなと思うんです。サエドッグも司祭様みたいになっている瞬間があるんですよ。悩み相談に乗ったり、慰めたり。これってなんだろう……ドッグ(DOG)って逆から読んだら神(GOD)だし、キリストは言いすぎだとしても、人にエネルギーを与える存在になっている。そういう変化のダイナミズムが好きです。
――この作品は観客と正面から向き合う時間を主軸にしていましたし、2023年にドイツの世界演劇祭で上演された『Super Farm』は、観客自ら動物の耳や鼻をつけて参加する形式の作品でした。サエボーグさんの作品は、当初から、着てパフォーマンスすることを前提にしていますが、近年は特に観客との関係性の結び方に広がりが生まれてきているように感じます。
あいちトリエンナーレに呼ばれたときに、ディレクターの相馬千秋さんが意識共有の一環として、いろいろな人を紹介してくれたり、ワークショップに誘ってくれて、そういう経験の中から「観客を振り付ける」という意識が自分の中で言語化されてきました。これは『House of L』でドラマトゥルクとして参加してくれたセバスチャン・河南・ブロイさんのおかげでもあります。
デパートメントHもコミュニケーションが中心のサロンなので、花形としてのショーは存在していても、それもパーティー参加者が共有するものの一部で、それぞれの自分の盛り上がりの時間軸は違います。だから観客との交流については、その頃からずっと意識してきたことではありました。ただ、あくまでもそれは、オーガナイザーが作る枠組みという振付でした。じゃあ自分だったらパーティーをどう作るか。今は新しく得られた「振付」の概念をもとに、どんな経験を観客に持ち帰ってもらい、自分も変わっていけるかを組み立て直している感じです。
  • 2023年ドイツの世界演劇祭で上演された『Super Farm』では、観客はロビーに用意された動物の耳やしっぽから好きなものを選び身に着けてから会場へ。

――ラテックスの着ぐるみの出発点には、身体の可塑性、拡張性へのこだわりがありますが、一方で、シアターコモンズ’23では『Soultopia』という物理的な実体のないVR作品にも取り組まれました。
それが、プレイしてみると、意外にも着ぐるみに感覚が似ていたんです。ヘッドセットを着けると重いし、だるいし、目線の変化もありますから、案外身体的な経験ができる。カスタムの自由度も高いので、着ぐるみ好きの人でアバターにハマる人が多いのもわかります。
――プレイヤーがサナダムシになって牛の腸内をめぐり、排泄されて死んで牧場界に転生する。その間にはプレイヤー同士の交流もあって、今までとは違った多幸感も感じる作品でした。
現実世界では絶対にできないこと、現実の着ぐるみデザインではできないことをやろうと思ったんですね。そのうえでどうやって参加者同士のインタラクティブなコミュニケーションをとるかを考えました。実際に自分でも参加していたのですが、終わった後、魂が抜けるような感覚があるんです。もともと、輪廻転生を体験し、現実に戻ったときにそこでも輪廻転生が始まっているイメージで、『Soultopia』の世界でデトックスをして、皆で助け合ったときのキラキラした優しい気持ちを忘れないで現実に持ち帰ってほしいな、と。ヘッドセットを取ったときに、自分は生まれ変わって現実の世界に来たんだよ、と感じてほしかったんです。リフレッシュになってくれることを希望していました。
あの世界は現実ではできないことも多く、重力をはじめ、いろんな制限があるし、完全なドリームの虚構ではなくて、もう一つの現実があるというイメージでした。人が考えて設計する世界なので、どちらかというとSNSにおいてどういうコミュニケーションをとれるようにデザインするかという発想と似ているような気がしました。電脳空間においての新しい村(共同体)を模索する的な。
――身体の移動を伴わずに体験できるVRやオンラインの作品は、今後いっそう望まれるようになると思います。サエボーグさんはそうした流れにどう向き合っていきますか。
私の頭の中にあるものを実現するにはVRの方が簡単で、例えばライティングも設定ひとつで変えられるし、デザインもしやすいのかもしれません。ただ、できることが多いからといって、練られたデザインになるわけじゃないんですよね。現実の制約の中でどう見せるのかという工夫を凝らすことも、自分の着ぐるみにはプラスになっていると思いますし、やっぱり現実の土地に行ってパフォーマンスすることで与えられているものはすごく多い。メタバースでも偶然に誰かと出会うことはありますが、現実に触れる土地や人の情報量は圧倒的で、つまり、普段と違う環境に行くことで出会えるもの、視点が変わって見えてくることが面白い体験なんだと思います。オンラインでも、現実でも自分自身が面白い発想をもてなければそれを生かせないという意味においては、どこまででも自分自身と地続きだと思っています。
  • サエボーグの代名詞とも呼べるサエポーク。取材した日の「内臓」は、自身も着ぐるみ作家、アクターとして活動する露木妙さん。落ち着いた、物静かな印象の女性が、ポークを着た瞬間から愛嬌たっぷりのコケティッシュな存在に変身した。 Ⓒ 宇壽山貴久子

サエボーグ いきもの図鑑

手づくりのラテックス製ボディスーツを身にまとうと、半分人間で半分玩具の「サエボーグ」が出現する。この人間社会に恭順の意を表する弱きいきものたちは、かわいらしさの奥で何を思うのか。各キャラクターの役割や内包するストーリーとともに、サエボーグの世界を形成する住人たちを一挙に紹介。(制作年/素材)

1.セックスプードル(2008/ラテックス)

「一人でオスとメス両方ができるといいなと思ったんです。バービーが連れているペットのイメージでプードルにしました。セレブっぽくしてても、結局動物だよねと」

  • Ⓒ ZIGEN

2.サエビーフ(2009/ラテックス)

乳牛。いつでも搾乳できるように妊娠し続けている。「BBCの子ども番組の『テレタビーズ』に影響を受けています。あのキャラクターたちってかわいいけど、時々『ごはんだよー』ってどこからか放送で呼ばれるんです。『あ、管理者がいるんだ』って思いますよね。あんなに楽しそうにしているのに、自由意志でそこにいるわけじゃないという」

  • Ⓒ Taro Irei

3.サエシープ(2010/ラテックス)

羊。定期的に毛刈りでヌードにされてしまう。「普通は毛の表現も組み合わせながら立体を作っていくんだと思いますけど、コミックテイストでグルグル渦巻を描いてしまった方が早いなと。この子は二代目で、チョコレート色と薄い水色だった初代よりパワフルなイメージに仕上がりました」

  • Ⓒ Taro Irei

4.サエノーフ(2011/ラテックス)

ファーマー(農婦)。家畜たちと同じくメス。服を脱ぐと管理番号も刻印されているのがわかる。「プレイモービルにインスパイアされました。家畜の補佐役として作ったんですが、着てみるとすごく大変で、十分にサポートできなかった。黒子なので脇役なんですが、ファーマーが好きという人は多くて。やっぱり人って、人間に思い入れを持っちゃうんですね」

  • Ⓒ Taro Irei

5.サエチキン(2012/ラテックス)

雌鶏。ひたすら卵を産み続けている。「中に入ったとき、肛門側に顔がくるようにしてあります。顔まわりの緑とオレンジの色合いは、(コーンフレークの)ケロッグのイメージ。卵を産むときは、いつもお客さんに『頑張れ、頑張れ』って応援されていていいなと思います」

  • Ⓒ ZIGEN

6.サエポーク(2013/ラテックス)

雌豚。良質なポークを提供するために生きる。「重要なのは肉が取れること。よく『生きた彫刻』とも言われるんですけど、彫刻と着ぐるみの違いは、中身があるかないか。肉をはぐと、中の身体も見えて、生きていることが感じられる。それが食肉にまつわるメッセージ以上に面白いところです」

  • サエポーク タイプ2  Ⓒ 髙橋健治

7.プーリンセス(2018/ラテックス)

うんちの城に住むフンコロガシのお姫さま。「着ぐるみでは帽子風にしちゃったんですけど、本当は頭にシャベルのような突起がついていて、土を掘るんです。その形が太陽に似ていて『太陽の化身』と呼ばれています。うんちを食べてる底辺キャラだけど、実は偉いんです」

  • Ⓒ 髙橋健治

8.うんち&ハエ(2018/ラテックス)

犬の糞と、コンビを組む蝿。「うんちの形状はだいぶ長い年月悩みました。ある日、友人がそれを『全ては螺旋だから』って回転させたんです。そのねじれだけで素晴らしい形になりました。蝿は牧場に行けばずっと羽音が聞こえていますからセットです。うんちの芳醇さを出すのに必要な存在でもあります」

  • Ⓒ Charlie Engman

9.アリ(2020/ラテックス)

プーリンセスの世話係。「これも黒子として作りました。一人で着られるし、動きやすいんです。ほかの着ぐるみは一人じゃ着られない、自立できない存在です。それもケアのひとつで、むしろ豊かなことだという発想でやっていたんですけど、コロナ禍ではそうもいかなくなりました」

  • Ⓒ Taro Irei

10.サエダムシ (2023/VRアバター)

腸内に生きるサナダムシ。「実際には目はないんですが、もともとある突起を目としてデザインしています。ないと萌えが足りないので。身体を分割できて、自分を反復できているという意味で、節ごとに顔を描きました。写真だとフェイクっぽく見えますが、動画の中で大群でわーっとやってきたりする場面は最高でしたね」

  • Ⓒ 本間悠暉

11.サエドッグ(2024/ラテックス)

弱った犬。人の助けを求めつつおびえてもいる。「人間が入ったときにおさまりのいい犬種をミックスしたデザイン。ヨロヨロと歩いていて哀れな感じ、それでいて高貴な感じをもたせたくて、この色にしました。弱っているけど、与える側にもなるスピリチュアルドッグです。『内臓』の一人、露木妙(たえ)さんによれば、タエドッグに名前を付けてくれる子どもたちがいたりなど、特別な関係を結べた体験もありました」

  • Ⓒ 髙橋健治

12.樹木(2024/ラテックス)

「学芸会とかで立っている木の役、あれが好きで。本当は木も着ぐるみでやりたかったんですが、それだとパフォーマーもたくさん必要で、何時間も立たせることになるので大変すぎるな、と。それで着ぐるみではなくなりました。背景の木は書割になりました。『オズの魔法使い』みたいな、昔の映画のイメージ。箱庭みたいに、『ここが私の遊ぶコーナー』って決めている感覚です。子どもがおもちゃで遊ぶとき、世界観の整合性を求めてないので、その自由さを見習おうと思っています」

  • Ⓒ 髙橋健治

13.太陽(2014/ラテックス)

「牧場の奥にクラブイベントのお立ち台のようにやぐらを組んで、太陽の姿で踊るGOGOダンサーのように、光った着ぐるみにしたかったのですが、やぐらを組むのは大変なので、ここでは着ぐるみではなくなりました。そのリベンジとして、後に火をイメージした光るスーツ“火ぐるみ”をつくりました。」

  • Ⓒ 髙橋健治

【展示情報】

黒部市美術館開館30周年 サエボーグ Enchanted Animals
2024年11月16日~2025年1月13日
https://kurobe-city-art-museum.jp/2024/08/07/saeborg/

  • Ⓒ 宇壽山貴久子
      

取材協力:露木妙