KAAT×東京デスロック『外地の三人姉妹』
(2020年12月12日〜20日/KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ)
撮影:宮川舞子
Data
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[初演年]2020年
ソン・ギウン
外地の三人姉妹
ソン・ギウンSung Kiwoong
1974年生まれ。劇作家、演出家、第12言語演劇スタジオ主宰。
延世大学国語国文科在学中の1999年に東京外語大学で交換留学生として日本語を学ぶ。帰国後、韓国芸術総合大学の演劇院演出科大学院で演劇を専門的に学ぶ。
2006年、自身の作・演出『三等兵』でデビュー。作家、演出家としての仕事以外に、日韓の演劇の現場で翻訳、通訳、演出助手、プロデューサーなどマルチな役割で活動。東京デスロックの多田淳之介と2013年『カルメギ』、2015年『颱風奇談』をコラボレーションで制作。翻訳書に『平田オリザ戯曲集』1巻〜3巻(ヒョンアム社)、共同翻訳書に『現代口語演劇のために』(演劇と人間)、『坂手洋二戯曲集:屋根裏』(演劇と人間)がある。
2011年に『カガクするココロ─森の奥編』(平田オリザ原作)で第4回大韓民国演劇大賞優秀作品賞、2012年に『多情という名の病』で第1回ソウル演劇大賞演出賞、2013年に『カルメギ』で第50回東亜演劇賞作品賞・演出賞・視聴覚デザイン賞、2014年に第4回斗山ヨンガン芸術賞、今日の若者芸術家賞(文化体育観光部長官賞)を受賞。
第1幕
1935年4月、父親の命日と三女・尚子の20歳の誕生日が重なった日。三人姉妹のいる福沢家に離れに住んでいる叔父で医師の千葉、知り合いの軍人たち(日本と朝鮮の血を引く男爵の朴、朴の同僚・相馬、少佐の木戸)などが訪れる。
尚子を祝い、新しく赴任してきた磯部中佐の噂話をしていると、本人が新任の挨拶に訪れる。かつて父の部下だったという磯部に、姉妹は国際政治学の研究をしているという弟・晃を自慢げに紹介する。
近所に住む次女・昌子の夫で中学教師の倉山が妻を呼びにやって来る。磯部、尚子に気のある朴と相馬が歓談していると、晃が朝鮮人の恋人・仙玉を伴って来る。
仙玉は気おくれして帰ろうとするが、晃は今日こそは皆の前で結婚を宣言すると言い、プロポーズをする。
第2幕
1936年12月、町が祭りで賑わう中、道議会議員・矢内原の下男・黄斗伊(ファン・ドゥイ)が議員となった晃に手紙を届けに来る。
今は妻となり、福沢家に同居している仙玉が、赤ん坊の部屋を陽当たりのいい尚子の部屋ととり替えるべきだと晃に不満をぶつける。
昌子と磯部が祭りから連れ立って戻る。既婚者の二人だが結婚生活に不満があり、お互い惹かれ合っている。愛の言葉を交わす二人を、朝鮮人の下女・カンナンが目撃する。
尚子、朴、相馬が祭りの仮装姿で帰宅。祭りでは男が女、女が男に仮装する風習があるのだ。みんなで談笑するうち、100年後の世が話題となる。磯部はグローバル化が進み、資本主義が世界を席巻すると言う。朴は100年後も「平和な世界を夢見ているだけ」と言い、退役する決意をしたと告げる。
仙玉が手紙をもって現れ、磯部にわたす。妻が自殺を図ったという知らせに、慌てて出て行く。
庸子と倉山が疲れ切って学校から帰宅する。仙玉は庸子に、赤ん坊の具合が悪いので今晩訪れる予定の軍人たちの訪問を断って欲しいと泣いて頼む。
庸子は昌子に晃の賭博所通いが噂になっていると告げる。その夜も晃は、千葉と連れ立って麻雀博打に出かけてしまう。
相馬は尚子に愛していると告白し、満州行きを考えている朴には付いていくなと言う。
夜中に昌子を迎えに来た倉山、起きてきて暖かい部屋に子供部屋を移すことを言い募る仙玉‥‥。そんなゴタゴタに、尚子は東京へ帰りたいと庸子に訴える。
第3幕
1939年8月初旬の午前零時過ぎ、火事を知らせる半鐘が鳴り響く。庸子は焼け出された人たちの避難場所にするため、家を片付けている。年老いた女中のサヨは手伝いながら、行き場のない自分をこの先、見捨てないで欲しいと嘆願する。
仙玉が来て、疲れて座っていたサヨを「怠け者」と叱咤する。それを咎める庸子に仙玉は、朝鮮人なのに日本の家で頑張っている自分こそがこの家の主婦なのだから、全て自分に任せてほしいと言い返す。
昌子を連れ戻しに来た倉山は、庸子が教務主任に昇進したことを祝う。しかし、庸子は、「普通の女」の方がよかったと漏らす。
酒に酔った千葉が往診から戻り、避難所準備の手伝いに来た黄と鉢合わせしてお互いの母国語で罵り合う。
避難してきた磯部が、朝鮮人の不穏分子による放火の噂を伝える。磯部は自殺騒ぎを繰り返している妻が避難して平然と食事している様を見て、辟易する。磯部が近々満州に異動すると聞いた昌子は取り乱す。
一方、北の鉱山で管理職の仕事を見つけた朴は、そこで自分と一緒に働こうと尚子を誘う。
みなが去り、残った三人姉妹は、晃の博打による借金で家が抵当に入れられていること、仙玉が夫の上司である矢内原と不倫していることなど福沢家の苦境を話し合う。
カフェで女給をして生活費を稼いでいる尚子は、心身ともに限界に達していた。庸子は尚子に朴との結婚を勧める。昌子は磯部との不倫を告白するが、庸子は頑として認めない。
晃が現れ、仙玉や自分に不満があるのはわかっているが自分たちに非はない、家を抵当に入れて悪かったが賭博を止めてくれなかったからだと、逆ギレして立ち去る。
第4幕
1942年10月初旬、戦時下の日曜日。尚子は朴との結婚を決め、みんなで南方への出征が決まった木戸の見送りをしている。不安を感じている尚子に、千葉はお祝いの「結婚十訓」を手渡す。
2人の子供を載せた乳母車を押している晃、家の奥で不倫相手と楽しんでいる仙玉、いつも通り、連れ戻そうと昌子を探し回っている倉山、姪のカンナンに日本人のところで働くなと敵対心を剥き出しにする黄‥‥。
晃は千葉に、もうすぐ家を矢内原に売却するから福沢家にいる住人は引っ越す必要があると伝える。
駐屯部隊が移動する日、別れの挨拶に訪れた磯部に、昌子は行かないでとすがりつく。お国に縛られている自分にそれは出来ないと突っぱねる磯部。泣き崩れる晶子に、倉山は「水に流して、一緒に暮らすしかない、ずっとここで」と言う。「生きていく。死んだように、眠るように」と呟く晶子。
相馬が決闘して朴を斬り殺したと、駆け込んでくる。立会人だった千葉は、木刀の朴に、相馬が軍刀で斬りかかったと言う。叫びながら相馬に詰め寄る尚子。
駐屯部隊を鼓舞する軍楽隊の音楽が聞こえる。相馬は「最初から始めなきゃよかったんだ、こんな戦争は。日本は…我々大和民族は、今からでも島にこもって暮らしたほうがいい。…我々だけで純粋な和を築き上げて…」と吐き捨てる。
残された姉妹と千葉。「残された人間は生きていくしかない」「振り返らず、前向きに」と話す庸子に「前ってどっち」と問う尚子。果たして残された人々にとって向かうべき前とはどちらなのか‥‥。
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