烏丸ストロークロック『国道、業火、背高泡立草』
(津・伊丹・広島 三都市ツアー2013 津公演より) 撮影:西岡真一
Data
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[初演年]2013年
[上演時間]1時間35分
[幕・場数]1幕3場
[キャスト]6人[男3、女3]
柳沼昭徳
国道、業火、背高泡立草
柳沼昭徳Akinori Yaginuma
1976年、京都府生まれ。「烏丸ストロークロック」代表。劇作家・演出家。近畿大学文芸学部在籍中の1999年に劇団を立ち上げ、以降京都を中心に創作活動を続けている。関西圏の劇作家の登竜門である「OMS戯曲賞」ノミネート多数。小作品の創作を積み重ねたり、フィールドワークを行うことで現代社会のあり様に立ち向かい、モノローグを活かした個人の心象風景として描くのが特徴。主な作品に『福音書』(第24回Kyoto演劇フェスティバルKyoto大賞受賞翌04年の改訂上演『福音書-六川編-』は第12回OMS戯曲賞最終選考ノミネート)、『秘密の朝、焼べる二人』(ミソゲキアワード2011受賞)、漂泊の家シリーズ総集編『八月、鳩は還るか』(第18回OMS戯曲賞最終選考ノミネート)、『短編集:仇野の露』他多数。また、各地で高校生から高齢者までを対象とするワークショップや、市民参加劇の脚本・演出も手がけている。
登場人物は回想シーンなどで本役以外も演じる。
明転すると舞台に祐吉が座っており、かざした腕を振り下ろすことで物語が始まる。
夜。大栄町へ向かう電車内で祐吉が幼い頃を回想する。箪笥の引き出しを階段状にして上り、飛び降りる遊びが好きだったが着地に失敗。腕の骨が折れて、曲がったまま固まり、母の自分を見る目が変わったことなどが綴られる。
目的の観音駅で降りる客は少なく、老女に教えてもらったホテルは既に廃業し、町議選候補の選挙事務所になっていた。
祐吉は食事のために入ったスナックで、女店主からかつて放火の疑いから町を追われた祐吉ではないかと問いただされる。
店を飛び出し、駅の待合室で一夜を過ごした祐吉は、若い男に声をかけられる。スナックの娘と付き合っている男は、祐吉の噂を聞いていた。彼は勤務先の工場で派遣切りに遭い、今は農業研修中だと言う。
男と別れ、祐吉は高校時代の恋人・伊織を訪ねる。伊織は結婚し、妊娠中だった。右翼を名乗り、羽振りよく振舞っていた伊織の父・行蔵は、脳卒中で倒れて寝たきり。彼はかつて祐吉の母を愛人にしていた憎むべき相手だった。
恋情を蘇らせ「抱いてくれ」と迫る伊織と、祐吉の高校時代の回想が交互に現れる。
二人が付き合っていることを聞きつけて怒鳴り込んで来た行蔵は、祐吉を殴り、家の前の荒地に灯油を撒いて火をつける。燃え上がる背高泡立草。火事は行蔵の仕業だったのだ。
寝たきりの行蔵に見舞い金を投げつけ、母の死を告げ、「謝れ!」と叫ぶが、その声は届かない。憔悴して古田家を出る祐吉。
祐吉は別の形で町の人々を見返すことを思い立つ。
彼は大阪で健康食品の営業をしていた。社長は業績優秀な祐吉に目をかけ、やがて浄水器を売る別会社を任せてくれた。だがそれはマルチ商法で、大金を手にしても祐吉の虚無感は消えず、母とも分かり合えぬまま別居してしまう。ガンになった母は「大栄町に帰りたい」と言い、死後、祐吉は稼いだ金をバッグに詰め町へやって来たのだ。
何もないこの町の唯一の自慢である米を「観音様のめぐみ米」と名付けて高値で売り出し、廃れた町を甦らせ、自分と母を追い出した奴らを見返す。マルチ商法で鍛えた巧みな弁舌と金で、祐吉は町の人々をビジネスへと駆り立てていく。
祐吉の戦略が当たり、米はテレビ取材を受けるまでに。町の人々は祐吉の意のままとなり、「豊かさ」に狂喜乱舞する。彼は町の英雄になった。
伊織のいる古田家の場面が挿入される。彼女は父に国道沿いで見た火事の話をする。伊織が話す猛火の情景に、祐吉のセールストークと、その虚業がいかに成功しても金以外の何も生み出さなかったかが重ねられる。
語る二人と狂奔する人々をきらめく炎が彩る。一人ずつ果てる町の人。いつしか祐吉は大栄町に向かう電車内に戻り、再び手を振り下ろして物語の幕を下ろす。
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