劇団鹿殺し10周年記念公演・第一弾『スーパースター』
(2010年1月21日〜28日/青山円形劇場) 写真:和田咲子
Data
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[初演年]2010年
[上演時間]2時間
[幕・場面数]1幕10場
[キャスト数]26人+α(男17・女9)
丸尾丸一郎
スーパースター
丸尾丸一郎Maruichirou Maruo
大阪府豊中市生まれ。本名・丸尾啓之。劇作家、俳優。関西学院大学在学時より、同大学の演劇サークル「Something」で演劇活動を開始。2000年、菜月チョビと共に劇団鹿殺しを旗揚げ。2005年から東京に拠点を移し、年間1000回以上の音楽劇的路上パフォーマンスを行い話題に。「老若男女の心をガツンと殴ってギュッと抱きしめる」を合い言葉に、身体を張って、音楽に鼓舞されながら人間の愛おしさを表現する作品を発表。2011年『スーパースター』で第55回岸田國士戯曲賞最終候補作にノミネート。
定職につかずマンガを書き溜めるだけの青年・輝一は、唯一の理解者と言っていい母と幼くして死別。小さなときから肝が据わっていた弟は成長してボクシングで大活躍しているのに自分は……。しかしそんな輝一の中にもスーパースターがいた。舞台は少年時代の輝一と、それを眺める現代の輝一という、二重構造で進む。
第1話
舞台は兵庫県尼崎市・築60年の立花団地。
主人公星川輝一の父・一刀は経営難で借金に手を染め、容赦ない取りたてにあっていた。
一家は方策もなくおびえ、取り立てが来ると居留守を決め込むのだった。
容赦なく扉を叩く音。恐ろしい声。
修羅場の中、長男の輝一は泣いている。一方ですやすや眠る弟の瞬一。
瞬一には星がある……誰もが、特に父はそう信じて疑わなかった。
後年、母は父の店で働き通しに働き亡くなってしまうが、そんな日も父は弟のためにトレーニングをしていた。こいつはスーパースターになる……。
第2話
20年後、大人になった輝一は相変わらず立花団地にいる。立ち退きが要求されているが、断固居座りを決め込んで、マンガを描いている。
そこに父のトレーニングの甲斐あり、チャンピオンとして花開いたボクサーの弟・瞬一があらわれる。
瞬一は輝一に引越し代を渡して立ち退きを進める。いやがる輝一。なぜならここは母との思い出の場所だからだ。
そこにマンガ誌の編集者から電話がかかってくる。なぜか投稿した心当たりのない作品が大絶賛される。タイトルは「団地の超人ブッチャー」。
第3話
1986年の立花団地。幼い輝一。
広場で子どもが遊び、ママさんコーラスが練習しているところへ、ブッチャーという臭い少年がやってくる。なのにブッチャーは歌が驚くほどうまく、皆を夢中にさせた。
死んだ輝一の母も歌のうまい人だった。輝一の中に彼への憧れが芽生える。
しかしブッチャーという少年の正体はようとして知れない。
第4話
輝一がスナック・ペルーで飲んでいる。1986年の立花団地にいた子どもたちも成長し、うだつのあがらない大人となつて輝一のまわりで杯をあけている。
そこに瞬一が。兄が立ち退きに応じないばかりか解体屋のトラックをパンクさせているというので、彼のもとにも警察が来たと文句をひとしきり。
瞬一が帰ると、今度はブッチャーが店に現れたという話に……。ブッチャーという男はやはり本当にいるのか?
編集者が現れ「団地の超人ブッチャー」がすばらしいので連載したいという。書いてないのに……と、戸惑う輝一。
第5話
1990年の立花団地。輝一小学生の頃。
団地の住民たちで立ち退きに応じるかどうか話し合いがもたれている。
断固反対しているのは輝一の父ともう一人くらい。
そこに借金取りが現れ、おびえる父。ここでも良いタイミングでブッチャーが登場し、カンフーで闇金融を撃退してくれるのだった。ブッチャーの一撃がきっかけになり、みんなが輝一の家の窮状にこころよくカンパをしてくれた。
とはいえ、ちらほらと彼らは立ち退いていくのだったが……。
輝一はこのころ、マーチという少女に恋をした。初恋だった。
第6話
2010年。輝一は漫画に描かれたブッチャーの思い出に勇気付けられ、何があってもこの団地にいようと決意。解体トラックのタイヤをパンクさせ、フロントガラスを割って抵抗する。
編集者からは相変わらず描いてもいないマンガの絶賛の声……。
第7話
1993年の夏。輝一中学生の頃。団地では相変わらず立ち退きが議論されていた。
バスケットボールに、そして輝一の初恋の人でもあるマーチにみんな夢中になっていた。
まぶしい季節。
そしてまた一人、友達が団地を去っていく……。
第8話
2010年。編集者から電話が。「団地の超人ブッチャー」がつまらなくなったという。ブッチャーが輝一名義で編集者に送っていたらしい原稿が途切れたため、自分で描いたらとたんにこれだ……。輝一は頭を抱える。
一方、弟は今度タイトルをとったら有名女優と結婚するという。
やはり自分には星がないのか。
やけくそになる輝一。
団地の解体工事も進んでいく。
ペルーから、初恋の人マーチがAV女優になっていたと告げられる。
第9話
1995年、輝一がバスケット部を引退する大切な試合。挽回できるシーンで、輝一はシュートをはずしてしまう。ブッチャーがついていたのに。
ブッチャーは「もう一度チャンスはある」、「次はマーチに告白だ」と明るくはげます。
2010年の輝一はここではっと思い出した。
「団地の超人ブッチャー」は母と自分が二人で創作したマンガだったのだ!
そこにタイトルマッチをひかえた弟が事故に遭ったという知らせが届く。
第10話
病院に駆けつけると弟はわざと事故にあったらしい。
試合は相手のマイク本郷の不戦勝になると思われていたが、瞬一の代わりにブッチャーがリングに現れ、何度倒されても、サンドバックのように殴られても立ち上がる。
それを見て、何かをさとった輝一はリングによじのぼる。
輝一がリングに立つとブッチャーは消えた。
そして輝一とマイク本郷はウルトラマンのように巨大化して戦う。
その姿はさながら怪獣と戦うスーパースター。
第十一話
輝一はチャンピオンベルトを手にしていた。
廃墟と化した団地の中。荷造りもそこそこに歩き出そうとする輝一の耳に、かつての団地の仲間達の暖かい歌声とマーチのトランペットの音が聞こえた気がする。
母と合作した「団地の超人ブッチャー」が描かれたスケッチブックを抱いて、叫ぶ。
「マーチ、好きだー!」
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