赤堀雅秋

その夜の侍

2008.04.28
赤堀雅秋

赤堀雅秋Masaaki Akahori

千葉県出身。1994年、パフォーマンス集団「STAGE14°」に入団。96年の解散時にSHAMPOO HAT(99年よりTHE SHAMPOO HAT)を結成する。以降、全作品の劇作・演出を手掛ける他、俳優としても出演。初期はコント的なワン・シチュエーション劇を執筆するが、98年より中流家庭の台所、アパートの一室、ビルの屋上といったごく日常的な場所を舞台に、実存的な劇空間の創造を主題とするようになる。笑いを交えつつも徹底的にリアルかつ凡庸に描き、演出される登場人物とその生活は、人間の本質に根ざす無様さや滑稽さ、残酷さや狂気までをあぶり出し観客に突きつける。劇団外のプロデュース公演への戯曲執筆や演出、映像作品への脚本提供も多数。2007年の劇団公演『その夜の侍』は、岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされた。

赤堀雅秋 『その夜の侍』
撮影:斎藤いずみ

Data:
[初演年]2007年
[上演時間]1時間45分
[幕・場面数]1幕16場
[キャスト数]9人(男6、女3)
[初演カンパニー名]THE SHAMPOO HAT

 3年後の久子の家。テーブルの上に骨壷を置き、なぜかブラジャーをつけた男がプリンを食べながら留守番電話の伝言を再生している。声の主は事故で死んだ久子で、男は夫の健一。何度も伝言を聞く健一。そこへ久子の兄・青木が現れる。青木は健一に、同僚教師・川村との見合いをすっぽかされ迎えに来たのだ。ついて来た川村と即席の見合いが始まるが、健一は服の下につけたブラジャーを見せて見合いを断る。

 久子を轢いた木島と小林は、出所後、同じタクシー会社で働いていた。木島は小林の家で、同僚・星を痛めつけ轢き逃げの過去を言いふらしたかを糾弾している。目前の激しい暴力にもかかわらず、小林の妻・昭子は無反応だ。そこへ青木が訪ねて来る。一カ月前から毎日届く脅迫状の送り主を、健一ではないかと疑う木島に呼びつけられたのだ。文面は「お前を殺して、俺は死ぬ。決行まで、あと○日」と日数だけが減っていくもの。脅迫をやめさせろと恫喝する木島。無念を押し殺し、青木は事が起こらぬよう町を出てくれと木島に金を渡す。予告日は二日後に迫っていた。

 健一は従業員久保とガソリンスタンドを営んでいる。昼時、訪ねて来た青木とのたわいない会話。一方の木島は星を従えて町をぶらつき、思いつきのように工事現場の警備員の女・関を手込めにする。

 予告前日、再び昼休みのガソリンスタンド。脅迫状の件が言い出せない青木を、察しながらも取り合わない健一は久保とキャッチボールをしている。弁当の差し入れに川村も現れるが、青木と川村が場を離れた隙に、健一は愛用のグローブを久保に渡して去っていく。

 ラブホテルの一室。備えつけのカラオケで昭子が歌っている。健一が呼んだデリヘル嬢らしい。昭子を抱きたい健一と、虚ろにテレビの話しかしない昭子の会話はまったくかみ合わない。

 深夜の雑木林に木島と小林、足元に縛られた青木がいる。「町を出ろ」と言うだけの青木に腹を立てた木島が、青木を埋めようとしているのだ。制止に耳を貸さない木島に小林が逆上。スコップで木島を殴り、俺はマイホームを手に入れ穏やかに暮らしたいんだと叫ぶが、木島は小林を殴り返して黙らせ、青木を埋めろと命じ、その場を去って行く。

 予告当日の8月10日は久子の命日だった。小林と救われた青木、久保とが健一を探しているが、携帯電話も通じない。夜。木島は警備員・関のアパートに転がり込み、ゲームに興じている。嬉しげに木島をもてなす関。そこへ使いに出されていた星が、予告の決行を告げる最後の脅迫状を持って来る。「面倒くせぇ…」。つぶやいた木島は、包丁を手に外へ出る。

 夜、台風の激しい雨が町を覆っている。木島は闇の中、健一に姿を見せるよう挑発する。だが現れた健一は「他愛のない話がしたい」と繰り返すばかり。殴りつける木島、劣勢の健一。動きが止まった瞬間、健一は手にしたメモを唐突に読み上げる。そこにはコンビニや居酒屋を往復する木島の食事が克明に記されていた。健一は木島の生活の無為を突きつけ「この物語は最初から君には関係なかった!」と断じる。その叫びにさえ無反応の木島は、かかって来た携帯電話に応え、去って行く。残された健一に声をかけたのは青木だ。

 帰途、健一は入院する母を見舞ったという川村と行き会い、傘を手渡される。立ち尽くす健一。

 再び健一の家。トランクス姿の健一が留守番電話の伝言を聞いている。二度目を再生し、妻の声を聞き終えた健一は消去ボタンを押した。機械音の後、健一は手にしていたプリンを頭に落とす。二つ目も落とし、三つ目は顔に塗りつける。ふと浮かぶ微笑。

 何かが、始まる予感が漂う。

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