Data
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[初演年]2006年
[上演時間]2時間
[幕・場面数]1幕7場
[キャスト数]4人(男2・女2)
坂手洋二
いとこ同志
坂手洋二Yoji Sakate
1962年生まれ。1983年に燐光群を旗揚げ。以後ほとんどの作品の作・演出を担当する。99年にACCのグラントによりNYに留学。劇団外への執筆および演出、評論集・戯曲集も多数。日本劇作家協会会長を10年にわたって務める。日本演出者協会理事。国際演劇協会日本支部理事。演劇をひとつの「メディア」として捉え、「共同体」と「個人」の相克をテーマに、社会問題をジャーナリスティックな視点で掘り下げる。沖縄問題、自衛隊問題、宗教問題などを取り上げる一方、舞踏、音楽、映像といった他ジャンルとの交流シリーズや、現代能の形式を導入したシリーズ、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)にまつわる連作を発表。海外15カ国27都市で公演を実施し、海外のアーティストとの合作を行うなど、国際的にも活躍。岸田戯曲賞、鶴屋南北戯曲賞、読売文学賞、紀伊国屋演劇賞、朝日舞台芸術賞、読売演劇大賞最優秀演出家賞など受賞歴多数。
すべてを忘れてしまう男は、女の小説を読むことでなんとか自分という存在を把握し、その上大金を得ている。不遇をかこっていた女の方もこのモチーフと出会ってから売れっ子になった。しかし、今回の彼は、身体に発信機を埋め込まれて、その痛みは耐えがたい。もうすぐ発信機が爆発して殺されるのではないかという予感もある。
その夜、男はこれが最後という覚悟で女と向かい合っていた。終着駅へと向かう列車の中で、女は今夜こそ小説に書かれていない真実をと、語り始める。
二人はいとこ同志だった。田舎を同じくし、二人とも東京に出ていた。帰省のためいっしょに列車に乗っていたとき、恋におちる。しかし、いとこ同志ゆえの遺伝病の可能性に結婚を躊躇し、女は別の男の子ども、ノボルを出産する。その男とはすぐに別れたが、結局二人のいとこ同志は結ばれることなく、別々の道を歩き、たまに夜汽車で会うだけの関係となっていった。
もちろん女も疑わないわけではない。男の話すことは女から金をむしり取りたいがゆえの、ただの作り話ではないのか。発信機というのは、男の不安と後悔のうずきではないのか。しかし確かめるすべはなかった。
二十年余りが経ち、成功した女は自分の別荘を電車の車内風にしつらえていた。そこだとまるで夜汽車に乗っているかのような、小説そのままの生活ができるのだ。そこでなぞの男と同棲している。彼は夜汽車の男なのかもしれないし、変装したただのファンなのかもしれない。
実は女の両親はいとこ同志だった。遺伝病・鳥目をわずらっている女はそれが進行する前に、最終回を書きあげなければとあせっていた。
そこにノボルが婚約者をつれてくる。ノボルの恋人もいとこである。二人はとても真剣で、たとえリスクがあっても、それに立ち向おうとしている。
女は三代いとこ婚が続かずにすんだことを知り、自分がいとこと結ばれなかったことの真の意味を理解し、息子たちを祝福するとともに、男が人類のためにその身をほろぼす最終回を書き上げる。そして、他愛ないが幸せだった帰省列車での二人の時間を取り戻す。
女は再び終着駅に向かう夜汽車に乗っていた。それは自分の別荘なのかもしれない。向かい合って座っている男は、小説の主人公のように消え去りはしなかった。男は言う。「終着駅は折り返すためにあるんだ」。そんな二人を乗せ、列車は走り続ける。
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