『RED DEMON(赤鬼)』
(2003年/英国・ヤングビック劇場/ 作・演出:野田秀樹)
photo by Keith Pattison
Data
:
[初演年]1996
[幕・場面数]16
[キャスト数]4 人(男3 ・女1 )
野田秀樹
赤鬼 Akaoni
野田秀樹Hideki Noda
東京大学在学中の1976年に夢の遊眠社を結成。数々の名作を生み、80年代にブームとなった小劇場演劇のトップランナーとして脚光を浴びる。現代と神話の世界を行き来するような、時間と空間の飛躍する劇構造と冗舌な言葉遊び、走り回るような演技スタイルで、時代の寵児となる。92年に劇団を解散。ロンドン留学を経て、93年にNODA・MAPを設立し、プロデュース方式とワークショップによる芝居づくりを行い、次々に話題作を発表。近年は中村勘三郎と組んで2001年朝日舞台芸術賞グランプリを受賞した『野田版・研辰の打たれ』や『鼠小僧』といった歌舞伎の脚色・演出にもチャレンジ。海外との意欲的な試みも多く、イギリス、タイの俳優と共同制作した『赤鬼』で2004年朝日舞台芸術賞グランプリ、イギリスの作家・俳優と共同制作した『THE BEE』で2007年朝日舞台芸術賞グランプリ、読売演劇大賞を受賞するなどその成果は高く評価されている。
これは「フカヒレのスープを呑んで死んだ」女の話である。
「あの女」と白痴の兄とんび、あの女を狙う嘘つきのミズカネの3 人が、離島の浜に打ち上げられる。「あの女」はフカヒレのスープを与えられるが、それは船上で呑んだものと味が違うと言い、後日自殺する。とんびが、その死んだ妹について回想をする形で芝居が語られていく…。…ある日浜に赤鬼が現れる。村八分にされている「あの女」が呼び寄せたという偽りの噂が広まる。その日、ミズカネは、「あの女」の家で「あの女」に言い寄っている。と、その家に潜んでいた赤鬼を発見する。喰われると恐れるが、人間ではなく花を食べることを知る。ある晩、赤鬼は赤ん坊を悪気なく連れ去る。村人はパニックに陥り、花を使って赤鬼を洞窟におびき寄せる。長老とミズカネ、「あの女」が話し合い、7日間赤鬼に手を出さないという条件で、赤ん坊を返させることにする。
ところが、赤ん坊が救出されると、村人は洞窟を襲撃する。そして赤鬼が壁に描いた楽園の絵を見て驚く。「あの女」は、これは「海の向こう」を描いたものであり、赤鬼は神なのだと言う。村人は約束を守ることにする。その猶予期間中、「あの女」は赤鬼に自分のことばを教える。ある日、とんびは海上に見慣れぬものを発見するが、興奮のあまり何であったのかを忘れてしまう。程なくして赤鬼は村人に受け入れられるようになり、見物の対象となる。「あの女」は赤鬼が人間ではなく、見世物として扱われていることに憤る。
半年後、とんびは自分が見たものが大きな船であったことを思い出す。村人は、その舟が赤鬼の仲間の舟ではないかと思い、襲撃されることを恐れ、赤鬼と「あの女」を裁判にかける。二人は死刑を宣告される。刑の執行を待つ洞窟の中、「あの女」は赤鬼が書いた文字から、鬼たちが理想の土地を求めて航海を続けており、赤鬼は浜がその理想の地であるのかを確認しに来たということ、赤鬼が死んだと思い船はすでに遠ざかってしまったことを知る。
ミズカネととんびは船と合流しようと、「あの女」と赤鬼を救出する。4人は船出するが、船はもういない。食べ物が底をつき、飢餓が進む中、彼らは狂乱状態で陽気になっていき、最初に赤鬼が死ぬ。
物語は最初の場面へ。命を救われた「あの女」は、飢餓で朦朧とした中、ミズカネが船上で呑ませたスープのフカヒレは赤鬼の肉であったことに気づく。かつて赤鬼に「あんたは、人間を食うから鬼なのよ」と言ったことを思い出す。だが本当は「人が生きるために鬼を食べるのね」と悟る。絶望した「あの女」は自殺する。
とんびはこう締めくくる。「海の向こうには、妹の絶望が沈んでます」。
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