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2023.2.9

QDance Center
ナイジェリア
QDance Center

 ナイジェリアの首都ラゴスに拠点を置くダンスセンター。ナイジェリア出身でフランスのサーカス学校を卒業した後、振付家・ダンサーとして欧州で活躍していたクドゥス・オニケク(Qudus Onikeku)と、フランスで人材マネージメントを学び、世界的な企業で人事担当としての経験を積んだ人事エキスパートのアリ・ハジャラット(Alli Hajarat)により2014年に設立。

 西アフリカに位置しギニア湾に面しているナイジェリアは、人口およそ2億1,300万人(2021年、世界銀行の推計による)。人口のおよそ70%が30歳以下であるとされており、2021年の国連の調査では約43%が15歳未満。国全体の失業率が9.8%のところ、15歳から24歳の若年層の失業率は19.6%(いずれも2021年、世界銀行推計)と非常に高い。

 こうした中、米国のハリウッド、インドのボリウッドに倣ってノリウッド(Nollywood)と呼ばれる映画産業が同国において雇用を生み出す重要なクリエイティブ産業として成長を続けている。QDance Centerはこうした映画産業の成功にも影響を受け、芸術的な実践を行う場であると同時に、芸術性や創造性、革新的な想像力によって芸術への関心を育み、次世代の人材を育成して課題を解決していく社会的企業として設立された。

 QDance Centerが掲げる基本理念は「芸術性(Artistic)」「コミュニティ(Community)」「才能(Talent)」「奉仕(Services)」の4つ。中でも彼らが最も大切にしている理念が芸術性であり、専属のダンスカンパニーであるQDance Companyでは、植民地時代の歴史や身体的なトラウマ、移民の問題や多様性についてなど、様々なテーマに取り組み、時に政治的でラディカルな表現を、ダンスだからこそ可能となるものとして提示している。カンパニーの作品はナイジェリア国内だけでなく、アヴィニョン演劇祭やリヨン・ダンスビエンナーレをはじめとする欧州のフェスティバルや南米、アジアなどでも上演され、2017年にナイジェリアが初参加したヴェネツィア・ビエンナーレのナイジェリア館でも公演を行った。

 一方で、地域コミュニティに寄与する草の根の活動も重視しており、これまでに、ラゴスなどナイジェリア各地において5,000人を超える若者が彼らの活動に参加している。また、センターのワークショップ受講がきっかけとなり、インターンや、パートタイムあるいはフルタイムのスタッフとなる若者もおり、特に若年層の就労機会の創出にも貢献している。QDance Centerではローカルなコミュニティとグローバルなコミュニティはシームレスにつながるものと捉えており、ナイジェリアのローカルな場における様々な取り組みについて、海外のパートナーとも積極的に共有を続けている。

 また、QDance Centerでは障害のある人や、女性のアーティストにも平等に機会が与えられ、センターの主要な活動に参画することができる。特に次世代を担う若手の才能や創造性を伸ばすことを重視しており、ナイジェリアを拠点とする若手ダンサーや振付家を対象としたEMERGENCEというメンターシップ・プログラムを運営している。このプログラムをはじめとして、これまで障害者も含む100名を超える若手アーティストの育成に取り組んでおり、センターはメンターとしての役割を担いつつ、共に学ぶ場としても機能している。

 全ての人が平等な立場で参加できるフラットな関係性もQDance Centerの特徴である。中でも、2017年に開始し、毎年開催されるイベント「danceGATHERING」は、様々なバックグラウンドを持つ才能が集まる、ジャンルにとらわれない(anti-disciplinary)実験の場となっている。ナイジェリア国内だけでなく海外からも参加があり、2019年には南アフリカ、エチオピア、フランス、オランダ、英国、スペイン、ドイツ、ポーランド、米国、ウルグアイ、ドミニカ、チリなどからの参加者を含む7,433名が集まった。