国際交流基金 The Japan Foundation Performing Arts Network Japan

An Overview 解説

2010.6.9

Performing Arts Presenters and Arts NPOs 舞台芸術のプレゼンターとアートNPOの動向 曽田修司(跡見学園女子大学教授)

日本のプレゼンター事情
 日本の舞台芸術の上演には、①民間の劇場や興行会社が行うエンタテインメント・ビジネスとしての舞台興行、②新聞社・放送局の事業部や演劇の企画制作会社が主催して行う事業、③公立文化施設やその運営を行う公的財団が自ら主催して行う事業、④各地の鑑賞団体(観客組織)が主催して行う事業、そして、⑤芸術団体のセルフ・プロデュースによる上演、などの種類がある。

 1980年代から90年代にかけて日本各地に公立文化施設が急増したのに伴い、最近では③の形態を中心として、非営利活動として舞台芸術の上演が行われることが多くなった。また、フェスティバルなどの期間限定的な催しについては、行政機関や企業など、複数の団体が集まって実行委員会をつくり、そこが事業主体となる方法も多くとられている。

 これに加えて、近年、上演団体としてクローズアップされているのが、アートNPOである。日本では、90年代に入ってから、社会のさまざまな分野で市民のボランティア活動や民間の非営利団体による社会貢献活動が活発に行われるようになってきた。1995年の阪神・淡路大震災におけるボランティアの活動が注目されたのを機に、今後、社会の担い手として重要になるそうした団体に法人格を認め、活動を促進する目的で、1998年に特定非営利活動促進法(NPO法)が制定された。

 2006年9月現在、全国で23万204団体のNPO法人が認証され、その内、定款に「学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動」を定めているアートNPOは1,730団体に上る(NPO法人アートNPOリンク調べ)。公立文化施設を運営している団体や、国際的な舞台芸術のプレゼンターとして活動している団体が生まれるなど、その動向が注目されている。
アートNPOの最新動向
 現在、プレゼンターとして活動しているアートNPOには、大きく分けて3つのタイプがある。1つ目は、期間限定の実行委員会として事業を行ってきた事業主体がその実績をもとにNPOを設立し、継続的なプレゼンターとして活動を行っているケース。2つ目は、それまで行政機関、公的財団、民間企業が行っていた事業をNPOが委託を受けてプレゼンターとして実施しているケース。3つ目は、民間の団体が自らリスクを引き受けて継続してきた事業を、NPO法人化を契機に公的な支援などを受けられる事業として再構築するケースである。

 認証制度ができて9年になるが、NPOを支援するための税制や助成金制度などの社会的なしくみがまだ整っておらず、数は増えたものの十分な実力を備えたところは多くないのが実情である。しかし、2002年にはさまざまなアートNPOや市民グループが企画・運営するアートと社会を橋渡しする催しを全国から公募して支援する「アサヒ・アート・フェスティバル」がスタート。2003年には、全国のアートNPOが初めて一堂に会した「第1回全国アートNPOフォーラム」が神戸で開催されるなど、アートNPOの活動を広め、協力する取り組みも始まっており、今後アートNPOの活動が活発化することは間違いない。

 特に、2003年に「指定管理者制度」が導入され、公立文化施設等の「公の施設」の運営にNPO法人も参入できるようになったことから、公立文化施設の新たな担い手としての期待が高まっている。

NPO法人アートネットワーク・ジャパン(ANJ)
 東京国際芸術祭は、前身の東京国際演劇祭が始まった1988年以来、実行委員会形式の単年度事業として開催されてきた。その実績をもとに、2000年に運営主体をNPO法人化。東京国際芸術祭の運営の他、東京・豊島区の支援を受けて、廃校をアートスペースにした「にしすがも創造舎」を「NPO法人芸術家とこどもたち」とともに運営。横浜市からの委託により練習場「急な坂スタジオ」の運営に参画し、また、指定管理者として「大倉山記念館」を運営するなど、急成長している。

NPO法人Dance BOX
 1996年から、大阪の民間劇場トリイホール内に実行委員会を設け、ダンス公演およびワークショップを企画制作してきたが、同ホールがプロデュース活動を中止したのを機に独立の事業体として、NPO法人Dance BOXを設立。2002年に大阪の遊園地と商業ビルの複合施設「フェスティバルゲート」の空き店舗に小劇場のArt Theater dBを開設。大阪市が劇場の家賃や光熱費を負担して活動を底支えし、民間NPOのイニシアティブを活かした運営が行われている。2007年、フェスティバルゲートの閉鎖にともない劇場は閉鎖されたものの日本には数少ないダンス専門のアートNPOとして事業を継続している。

NPO法人ふらの演劇工房
 日本のNPO認証第1号。2000年度から、富良野市が建設した富良野演劇工場の管理と事業運営を市から受託し、演劇鑑賞事業、演劇普及事業、教育事業などを実施。日本における文化施設の「公設民営」の先駆的な事例である。公立文化施設の指定管理者制度への移行を受けて、2004年から富良野演劇工場の指定管理者に。

NPO法人STスポット横浜
 1987年に横浜市が開設した小空間の運営団体として市民ボランティアによって組織され、2004年にNPO法人化。STスポットを指定管理者として運営し、若手アーティストの育成に尽力している他、急な坂スタジオの運営にも参画。また、アート教育事業部を設けてアートと学校教育との連携を図るなど事業の幅を拡げている。

NPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク(TAN)
 第一生命が2001年に開設した第一生命ホール(東京)を拠点として活動するアーツ・サービス・オーガニゼーション。アートNPOによる民間音楽ホール運営の先駆的な事例である。第一生命ホールを拠点とする芸術活動と、地元でのコミュニティ活動を展開している。

NPO法人Japan Contemporary Dance Network (JCDN)
 ダンス関係者の間で実践的な情報を共有し、ダンス上演の機会を増やすためのネットワーク組織として結成された。JCDNでは、NPO法人設立準備期間中の2000年から全国各都市のダンススペースを回る公演事業「踊りに行くぜ!」をスタート。2007年には21都市で海外アーティストを含めた49組が公演を行い、マレーシア・タイ・フィリピン・インドネシアの4カ国5都市を巡る初のアジア巡回プロジェクトを実施するなど、その活動は飛躍的に拡大している。その他、チケット販売、コンテンポラリーダンサーなどを紹介したデータファイルの発行、各地の自治体と組んでワークショップやセミナーなどのダンス普及プログラムを実施。2002年度からは、コンテンポラリー・ダンス分野の基幹団体として、文化庁から「芸術団体人材育成支援事業」による支援を受けている。

NPO法人ARC(同時代演劇の研究と創造を結ぶアクティビティ)
 2003年に開場20周年を迎える小劇場タイニイアリスは、毎年国内外の小劇場を集めたアリス・フェスティバルを実施してきた。この実績をもとに、2003年5月にNPO法人ARC(同時代演劇の研究と創造を結ぶアクティビティ)を設立し、年1回、アジア小劇場演劇ネットワーク公演を実施。

NPO法人アートNPOリンク
 全国アートNPOフォーラムの開催を機に、アートNPOの共通課題を解決するために2006年に設立された。年1回の全国持ち回りによるフォーラムの開催の他、アートNPOに関する調査研究・情報収集・発信などを行う。